訳あって、ここ数日は西桔梗町によく居ます。

函館における西桔梗町というところは、なんというか、人は居ないけど物はあるみたいな場所です。
自動車学校、イオンモール、デカめのホームセンター、ラウンドワン、配送センター…
つまるところ、人口密集地の近くの割に地価が安くて、工場や大型商業施設、アミューズメント施設が立ち並びやすい場所ということです。その割にはパチンコ店が全然ないんですが。

さて、自分は西桔梗町に住んでいませんので、バスに乗って現在の自分の家に帰ろうと思ったわけですが、全然バスがない。その割に小雨のようなものが降っていて気分の良いものではない。
バスが来るまでの時間をどうにか潰そうと考えたときに、近くに明らかに「エロ本屋」みたいな本屋があることを思い出したわけです。
どうせこの雨の中でもどうしようもない輩が店内を物色しているだろうという期待を込めて、その空気を味わいに行くことにしました。

妙にガタついた片方が封鎖されたドアを開いて、風除室の自動ドアを通る。その前に傘を傘立てに入れようと思ったら、なんと傘立てに蜘蛛の巣が貼られていた。
この時点で自分は嫌な予感がするわけです。
だってここ数日はずっとではないものの雨続きで、傘を持って外に出ている人は少なくなかったですから。

いざ店内に入ってみると、やはりそこは無人だった。
これは非常に困るわけで、なぜなら自分はこの小雨の中でもエロ本を求め店内を闊歩するオヤジを観測しに来たのに、いざ観測してみたらオヤジは量子重ね合わせ状態から開放されて、消えてしまった。自分と対消滅しなかっただけ良いでしょうか。
一方で、店員とは対消滅した可能性があるとは思いました。
なぜなら店内には本当に自分一人で、おそらく店員はバックヤードにいるのでしょうが、店内は不思議な空気に包まれていた。

狭苦しい店内に所狭しと展示された女性の裸体を写したコンテンツと、店内BGMのエド・シーラン。そして一人佇む自分。
ただ、ここまで入ってしまったのならある程度店内を物色してみようという気持ちになります。
意外だったのは、単にエロ本やアダルトビデオ、PCゲームを取り扱うだけではなく、そこそこ真面目な雑誌も取り扱っていた点。まあ、そこそこ真面目と言ってもギャンブル雑誌なのですが。さらに意外だったのは、成年向け同人誌が販売されていた点です。
勝手なイメージでしたが、こういう本屋は実在する女性の裸体に対して忠実であると思っていたため、商業出版されていない本が店頭に並んでいることが驚きでした。しかもそこそこ大きなスペースで。
今後は、こういった本屋は実在する女性の裸体に対して忠実であり、空想上の女性の裸体にもそこそこ忠実であると記憶しておくことにします。

そういう取り留めもないことを考えながら店内を歩き回っていると、だんだん自分こそが自分が求めていたオヤジの姿であるという認識が芽生えてくる。今天井に吊り下がった監視カメラが自分をありのままの姿で捉える一方で、それをモニタ越しに眺める店員は何を思うのだろう。
いたたまれない気持ちが強くなって、結局自分は店内を一周し、レジ横のPCゲームコーナーでもはや見飽きたと言っても良い平面上に人が理想を描いた女性の裸体を見た。そして退店した。
約5分の出来事でした。

帰りのバスを待つ間、僕は入店前のあの気持ちを思い出した。「エロ本を求め店内を闊歩するオヤジを見たい」と。しかし、この調子ならそれは函館では叶わぬ夢ではないだろうか。
あの店はどうやって運営されているのだろう。
誰の金で、誰による利益で。
自分の好奇心の対価として、何か適当なPCゲームを買って帰るべきだっただろうか。
ごめん、次はもっと純粋なエロガキの心を持っていくよ。昭和ターミナル行きのバスに乗った時、「強い心を持とう。」と、降りしきる小雨にそう誓いました。